内装デザインの話
カウンター上では話のネタとしてもよく話題に挙げているがいつか話そうと思っていたことをこのタイミングで話そうと思う。話そうというか書き記そうと思う。いや、隠しているわけでもなく、かと言って自分から大々的に告知するでもなく、というようなこと。
実はバーと別事業でデザインオフィスの経営も行っている。誰がオーナーというわけでもなく全員がオーナー、共同経営ということだ。バーとデザイン。全く異なる業種だが、あえてそれを同じ会社としてやろうという試みだ。
先述の菅原の元同僚である2人のデザイナーがそれぞれの専門分野を担っている。
イカれたメンバーを紹介するぜ!
菅原
「バー」と「デザイン」、どちらの事務作業も全て統括して担うスーパーマネージャーだ。
彼無くして弊社は回らない。デザイナーとバーテンダー、いわゆる「職人」が自分の業務に集中できるように会社を経営する上で最低限のこと以外の雑務も全てこなしている。カクテルも作れる上にフォトショやイラレも使える。ハイブリッドすぎんか…?
宮田
プロダクトデザイナー。Bar Pálinkaではお店全体のデザインも担っているが、専門分野としては「イス(スツール)」「照明」などのいわゆる“モノ“だ。身近なモノだとペン立てとか100円ショップにあるような小物もそうだと思う。うまく説明できないけどそんな感じ。うちのスツールや照明に関しては後述するがとにかくすごい。
あとギターがプロ並みに上手いらしい。まだ聞いたことないけどプロ並みに上手いらしい。聞きてえ…
川畑
グラフィックデザイナー。変態すぎるデザインを提案してくるぶっ飛んだやつ。ロゴとかフォントとか、模様とか。世間でよくいうフォトショマジックを簡単にやってのける。簡単そうに見えるだけで、きっと簡単じゃないんだろうなという指の動きを常にしているのでシャイニングフィンガーと呼んでいる。呼んだことないけど。
Bar Pálinkaのロゴ、壁紙などは全て彼のデザイン。あの壁紙を提案された時の松沢の心情を察して欲しい。決断まで日数を要した。
ダンスが上手い。ギターとダンスと、いよいよアイドルグループ発足できそうになってきたな…。松沢はリコーダーが吹ける。
松沢の自己紹介はそのうちします。しないかも。お店で話します。
Bar Pálinkaの内装は弊社デザイナーの作品のギャラリーと言っても過言ではない。しかし、現在のデザインになるまで幾度とない紆余曲折を経ている。様々な理由、トラブルの上でお蔵入りとなったデザインを紹介しながら、どのようにして現在の内装になったのかを紹介したいと思う。
当店の特徴として、店内ど真ん中に鏡張りの壁がありカウンター席とテーブル席で空間が分かれていることが挙げられる。なんでここに壁が…と来店時に思った方は少なくないだろう。これには理由がある。
この物件を取得した時に遡る。Bar Pálinkaの物件は実は元々、芸者さんの置屋として使用されていたこともある一般住居である。カウンター席がある部分がキッチン、バックヤード部分がお風呂、テーブル席がある部分が和室だ。花柳界の風情が残る神楽坂の中心、この見番(検番)横丁には今もなお、そういった場所があるのだ。実際にBar Pálinkaの向かい側には神楽坂芸者組合の稽古場があり、日中は三味線のお稽古が聞こえる。
不動産屋さんと内見した時にいくつか質問をした。
そのうちの一つが
「和室とキッチン部分を遮る壁を壊して一つの大きな空間にしていいですか?」
というもの。
「いいですよ〜」
即答だった。
元々は和室だったテーブル席側。デザイナー陣は「なんか出そう…怖ぇよ…」、と怯えていたが松沢は和室が好きでここに寝泊まりしていた時期もある。実際なんか“いる“らしくてウケる。
お店を1人で回すのであれば、接客(会話)がしやすく空間コントロールをしやすいようにカウンター席を多めに、テーブル席は一つあればいいと思っていた。現在カウンター席は6席だが当初の予定ではカウンター席が9席だった。
当然、件の壁を壊すことを前提で空間のデザインも進めていた。
それがこちら。
このデザインを提案された時点で、ぶっ飛んでるな〜とは思っていたがこのぶっ飛び具合は序の口も序の口だった。
極め付けの事件は解体工事の直前に起こる。
「あれ…この壁もしかして躯体じゃね?」
クタイ…何それ美味しいの…
20代半ばの松沢には初耳すぎる単語に困惑する。
説明しよう!躯体とは
建物自体を支える構造上なくてはならない部分のことだ。
つまり壊せない。壊せば建物が壊れることになる。
「…冗談は顔だけにしろよ?」
こればっかりはプロに確認してもらわないと分からない…。しかし壊せないとなるとデザインも白紙に戻る…。古い物件なのでそう言ったことが書き記してある図面が残っていないのだ。困った。
とはいえ確認しないわけにもいかないので知り合いの建築士の方に見てもらった。
やはり躯体っぽい。絶望した。
ラーメン構造だとか、ブレース構造だとか、専門用語の解説も含めて丁寧に絶望へ落としていただいた。躯体かどうかの簡単な見分け方も教わった。壁を叩いた時の音でなんとなくわかるそうだ。躯体壁かどうかを見分けられるバーテンダー、そんなにいないだろうな。
それでも諦めきれずに電動ドリルで壁に穴を開けて確認もした。
…空回りして奥に入って行かない。やはり躯体っぽい。絶望した。大事なことなので二回言いました。
最後の最後まで諦めきれなかった。とりあえず解体工事をしてその時に再度、この壁が壊せるかどうか最終確認しようということになった。結論から言うと躯体だった。やはり躯体だった。なんてこったい…。絶望し(ry
この壁が躯体であることで空間が二つに分かれることが決定した。この時点で解体工事はすでに進んでおり、元々住居だったこの物件はモノの3日で真っさらになった。そのまま施工の予定がデザインが白紙に戻ったこともあり、当初9月頃開業の予定が延期となる。
躯体の壊し方についてググっていたら見つけた『リノベーショントラブルカルタ』の【く】
こんなに置かれている状況にピッタリなものが出てくるとは…
そして宮田がすぐに新しいデザインを見せてきた。
天才すぎる。
これが今のBar Pálinkaの原型である。どこがどうなってるかよく分からん…。が、解説を聞いてワクワクしてきた。これは本当に今までにないお店になるぞ、と武者震いがした。
透明なイス、箱がいっぱいのバックバー、突っ込みどころが満載すぎて武者震いはしているものの、まだ理解が追いつかない上に、決断できずにいた。
宮田「パーリンカのボトルに合わせた特注の箱を作ってパーリンカを壁に埋め込む」
松沢「なるほど」
パーリンカのボトルは細長いものが多い。これは香りの劣化を防ぐためだ。
細長くすることで液面と空気の接地面積が少なくなるので、空気中に気化する香りも少なくなるので長期間いい香りを保つことができる。あ、これ結構重要な話。
壁の模様は何?と聞いたら「とりあえず仮でこの模様にしてる。今、川畑がパーリンカをイメージした模様を描いてる(らしい)からちょっと待ってて」とのこと。
古代文明の壁画のようでこれはこれで好きだが仮らしい。川畑のデザインへの期待が広がる。
次回、壁の模様の話